潰れた檸檬

自傷しなくても傷だらけ

きかい

「冒女、受験や試験勉強の時はマシーン(machine)になれ。」

  

 これは浪人の時父親が言ってきたセリフである。

 

 最も、父親はマシーンそのものだった。地方の進学校出身で、旧帝落ちのマーチ法という学歴ではあったが持ち前の努力と根性で手堅いキャリアを勝ち取ってきた。定年前に中々の出世も果たした。その功績による社会的地位はかなり大きく、親の話をすると大抵は評価される。

 

 そんな父親は、輝かしいキャリアのためには私生活を犠牲にしなければならないこと、結果がその人のキャリアを象徴づけること、この2つを言語化しなくても私に教えてきたのは至極当然の事だった。クソ私立中に入る前までは自分もその通りの人生を送るものだと思っていた。

 

 だがクソ私立中に入ってから、というか小学生の段階から「もう輝かしいキャリアを歩むのは無理だ。東大には行けない。」と思い始めてしまい、遂に勉強を辞めてしまった。そこから人生の分岐が始まり、今に至る。今の大学に合格できなければ引きこもるつもりだったが合格してしまったがために、社会不適合者であるにも関わらず外に出ないといけなくなった。現段階で留年もせず単位も一応進級できる程度には取得しているし、割と頑張っているはずなのに、世間的に良いとされている大学に行けなかったこと、中高のテストをサボったことが災いして父親からは「何も成し遂げてない」「中途半端」「努力不足」というイメージを押しつけられているのである。それもそうだろう。父親もそうだし母親も、地方で働いてた身だったにも関わらず必死に勉強して今の地位を築いてきたのだから。

 

 そんな父親とは相容れなかった。それもそうだ。「本人がどう考えるかが最も重要」とする私と「キャリアのために犠牲にすることが美徳」とする父親が仲良くなれるはずもなかった。また説教をする時、知性を武器に仕事をしている父親が哀れな怒り方をするので見てもられなかったがため距離を置いていたが、さすがにこちら側で研究対象として見ていかないといろいろ気まずいということになった。そこで、定年の無趣味積ん読コミュ障おじさんの研究をすることにした。

 

 とは言えども、アイデンティティを社会に奪われた人間の分析は難しい。今後20年以上にも及ぶ長期間のライフワークになる。そこで、ある1つのアニメを参考にすることにした。巨人の星である。父親が好きだったアニメだ。

 

 これを見てほしい。

 


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 見たことあるだろうか。これは巨人の星の『1人クリスマス』である。

 

この画像の詳細はこちらで確認して欲しい。

 

https://dic.pixiv.net/a/%E4%BD%95%E3%81%8C%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%81%98%E3%82%83%E3%81%82%E3%81%84%21

 

 つまり、新一は野球ロボットと言われるぐらいまで野球に熱中していたらしいのだが、父親の「マシーンになれ」もこれと同じ意味だったのだろうか...

 

 だが、新一はこの記事によると相手チームに対してもクリスマスパーティに誘ったらしい。いくらなんでもヤバすぎひん?長い目で見ると苦労するタイプだと思ってしまったので、ロボットやマシーンになるのは無理だと感じた。ちょっと考えればわかることが分からないままプロになる度胸はない。それより、自分の考え方がどう活かされるかについての努力をするべきだ、

 

 まさしく、父親はマシーンだった。ちょっと考えればわかる人間関係ですらわからない彼であった。今の職に就くために5年ぐらい人間関係の機会を奪われてきた。そんなに父親を見てきたからこそ、その場その場で頭を使って物事を解釈していきたいし意見を言っていきたい。いつだって居心地のよい環境を探していきたい。私はそう思ったのだった。キャリアと引替えに、失ったものが多すぎたマシーンの彼と、あらゆる見地からアイデアを何でも奪ってやろうとする泥臭いアニマルな私、どっちが幸せなのだろうか。