潰れた檸檬

自傷しなくても傷だらけ

極(前編)

 先日、ベテラン芸人達の公演会を見に行った。場所が下町だったのもあり、客層は高齢者で占めた。20代の自分が孫に思えるぐらいだった。

 

 出た芸人は、現役漫才師、タレント落語家、高齢の音楽やってるグループ、そしてお笑い好きなら一度は聞いたことあるであろう大師匠芸人だった。

 

 大トリの大師匠芸人(Aとする)は、年齢は90代という恐らく舞台に立ち続けている芸人の中では最高齢であろう芸人だった。名前も広く知れ渡っており、今回の公演もA目当てに来た者も多かったはずだ。

 

 さて、肝心のネタはというと...そこまで面白くなかった。

 

 Aは90代もいうのもあってまともに1人でネタをすることが出来ないのだ。そこで、若手芸人(といっても下町においては40代でも若手扱いされてしまうのだが)の力を借りて舞台でネタを披露した。合計で、Aを含めて4人だった。観客はネタの精緻よりもAの存在を確認できただけで喜んでいた。実際、自分もAの存在そのものに期待していた節があったのは否めない。

 

 では何故そこまでして舞台に立ち続けるのだろうか。恐らく、Aがあのヨボヨボの身体で「出たい!」と言ったからだ。誰も断りはできない。そんな状態の身体を用いて、ネタなのかどうかも分からないネタを披露するということ自体本来は許されないのだが、観客である我々はAの存在の許容に積極的だったからできたのだ。