潰れた檸檬

自傷しなくても傷だらけ

終わりと始まり

登録している派遣会社が取引しているイベント会場が近々営業終了する。自分もそこで働いたことがある。1回だけ、というより1回働いて二度と行かないと決めたのだけど。

 

そこで働いたのは去年の秋のことだった。

 

仕事内容は格闘技イベントの運営だった。朝早くに集められたのは冒女と、Aさんと、Yさんの3人。ここまでは普通だった。だが別の問題があった。AさんとYさんは発達障害なのだ。

 

それはすぐに分かった。2人とも経験者でかつ初現場ではないにも関わらず、初現場で仕事経験の少ない自分よりも仕事ができなかった。椅子を図面通りに並べることも、基本的な接客もできなかった。また、理由もなくイライラして訳の分からないことを言ったりミスの指摘を永遠と繰り返して、冒女ですら「あーはいはい!分かりました!」とキレてしまった。後々聞いたが、AさんもYさんもとにかく仕事ができないため他の現場では名出しでNGを食らっているらしい。そして、他の派遣会社でも有名な2人なんだとか。

 

彼らがこの現場に来るのも当然のことだった。会場にそもそも人が働きに来ないからだ。そのぐらいその会場の営業はめちゃくちゃだった。まず運営と聞かされていたにも関わらず設営と撤去をもやらされた。インチキである。そしてボロボロの貸し上着。酷い衛生環境。更に、客も演者も人としてのレベルが低い。ゴミをゴミ箱に捨てる文化がないレベルで。一度働いたことがある人なら断る現場で、自分もそのうちの1人であった。「どんなに仕事が欲しくても○○(会場名)だけは入れない」と噂になるレベルである。そんな状況だととにかく誰でもいいから来てくれという状態になり、その結果彼らみたいな人間が来るのである。

 

そんな会場が営業終了したら彼らの行き場はどうなるのだろう。もちろん他にも彼らを受け入れてくれる現場はある。だが彼の大切な職場が1つなくなってしまうのだ。彼らにとって頼みの現場が閉鎖された暁には違う仕事を探さねばならない。終わりと共に始まりでもある。もしくは他の派遣会社に登録しに行くかもしれない。いや、よくよく考えたらあんな経営だからこそもう営業終了が決まってしまったのではないか。となると自分が働いたあの時から既に終わりは始まっていたのか。酷い現場は、終わりと始まりの両方の側面を持っているのだ。