潰れた檸檬

自傷しなくても傷だらけ

かくさ

日雇いをアイデンティティにしておきながら仕事の記事を書くのは久しい。そして仕事と自分の過去を混ぜた記事も珍しいものである。結論から先に言わせてもらうと、

「格差は社会に出る前から始まっているのだ。」

 

自分は都内の進学校の前で塾の配布の仕事をしていた。今回配布するのは塾のパンフレットと塾の名前入りの文房具(これをノベルティと言う)だ。その近隣には公立中学があるため、進学校の生徒が使う道には公立中の生徒も使っている。今回配布ターゲットは進学校の生徒であるため、公立中の生徒には配らないようクライアントに言われた。ちなみに最終目標は全て配り切ることなので早く終われば早上がりになる。じゃあクライアントの目を盗んで公立中の生徒に配れば良いじゃないかとお思いの読者もいるかもしれない。だがそれはしない。なぜなら公立中の生徒に配布するとその教員らからクレームが飛ぶからだ。「みんな文房具だけ取って捨てるからうちの前で配らないでくれ。」こう言われたら次からは二度と配れなくなる。

 

経験則なので他はわからないが、こういうクレームを入れてくるのは大抵そこまで賢くない学校が多い。それは自分が三流の私立中高に通っていたから痛いほどわかる。10代のある日教員は教室でこう言った。「みんな文房具だけ貰って後は捨てるんですよね。だからもう『うちの前では配らないでくれ』と言ってやりましたよ!」

 

自分の出身校はバカなんだな。

 

そう思い知らされた現場だった。そしてあの日以降出身校前で配る姿はそこまで見受けられなくなった。発注元の会社はあくまでも将来性のある学校の生徒という顧客が欲しいからわざわざ場所を指定してクライアントに任せている。つまり自分が出身校にいた時もしかしたら、もしかしたら将来性が見込まれた学校であるという見方があったかもしれない。しかし学校は自らそれを潰しにかかった。バカなんじゃないの。だからいつまで経っても三流なんだよ。

 

もちろん当時の自分はそんな事情を知らなかった。知らないだけ良かったかもしれない。ここにいても君は救われないんだということを早い段階で(そもそも中学入学時点で気づいていたが)悟ってしまったらその後の人生が成り立たなくなる。良かった今で。それなりの大学に入れた今で。

 

出身校やその同期らが嫌いだったのはそういうところだった。せめて三流なんだから体裁ぐらい一流の学校真似ても良くない?こっちは恥ずかしい思いしながら通っているんですよ。 もうそんなことする時点でバカ丸出しじゃないですか。あと教員や同期らも自分達のいる学校に対して恥じらいを持ってよ。もうますます嫌いになってきた...勉強できなくていいからせめてプライドは守ってよ。

 

***  

 

あの進学校の生徒は中学生の頃からそのような扱いを受けているのだろう。通っているだけでチヤホヤされ、上の世代から将来性を見込まれ寄ってこられる。格差はその頃始まっていた。自分が中高の時なんて名前すら認識されなかったし通っていても何も喜びも誇りも感じられなかった。彼らが羨ましかった。もちろん努力の上で彼らがそこにいるのはわかる。だが昔から蔑まれて生きてきた身としては死ぬほど羨ましい。周囲が優秀だと扱えば扱う程周囲の期待に応えようと頑張れる。そしてそのような学校に通えば通う程学校への満足度が高まる。自分がどんなに欲しくても手に入れられなかった理想の生活である。そんなある意味精神的に裕福な環境にいた生徒は多分自分のいた世界観なんて理解できないんだろうな。それは出身校に通っていた同期達や出身校の教員らにも言える。社会に出る前に隠された格差を感じながら、また次も配布の仕事を引き受けるのであった。